リフレッシュの時間

自分の思いつくままに、好きなことを書いています

近所のおばあさん

今年の2月下旬に、私の仕事のお客さん(おばあさん)が亡くなった。

まだ3,4年の付き合いだと思うのだけど、この3年というのが、コロナがあって、ある意味、濃厚な年月だったのだと思う。

このおばあさんは、床屋の奥さんで、年齢は70代後半だった。

ご主人さんが床屋で営業していて、経理をこのおばあさんがやっていた。

そのご主人さんも80代で、床屋を営業していると言っても収入は多くなかった。

普段なら年に一回程度しか会わないはずなのだけど、コロナで緊急事態宣言、持続化給付金、家賃支援給付金、東京都感染拡大防止協力金・・・。

どれもオンライン手続きで申請しなければならず、PCはおろかスマホも持っていないこの老夫婦はとても自分達のみでは申請などできなかった。

コロナのせいで、収入は激減、明日生きるのさえ大変という状況の中、私にできることは、給付金申請を手伝うことぐらいだと思って、PCが無いまたは不得手な方々向けの会場サポートに代わりに予約を入れたり、必要な書類をすべて用意したり、色々と手伝った。

おばあさんはたいそう感謝してくれたのだが、私が他の顧客対応に追われて非常に忙しい時にも、たまに電話をかけてきたりして、それが、時には、煩わしく感じる時もあり、表面上は親切に丁寧に対応していても、私はとても聖人君子のような心情にはなれなかった。

 

おばあさんは、いつも私のことを気にしてくれて、私がコロナに感染した時も、本当に随分心配してくれた。私がおばあさんを気遣うと、

「あたしがコロナに感染した時は、死ぬ時だね。気持ちの整理はついてる。」

と、おばあさんは、体が弱いのでよく言っていた。

 

そんなおばあさんが、今年1月に持病の(間質性)肺炎で入院して、2月中旬に退院して、私に「確定申告の資料を渡したい」と電話してきた。

その時に、電話口でおばあさんの声が、かなりしわがれてほとんど聞き取れないほどだった。

「なんで声が出ないんですか?大丈夫ですか?」

と言う私に、

「お医者さんが処方してくれた薬を飲んだら、声が出なくなった。」

と、なんとか聞き取れたしわがれ声で言っていた。

数日後、私がその資料を取りに行って受け取った日は、会話はできなくて、私だけが一人でしゃべって、おばあさんはうなずくのみだった。

 

そして、その日の夜、おばあさんは、「胸が痛い」と言って、救急車に運ばれて、延命措置を断り、亡くなった。

 

3月に入って、お葬式もすべて終わった後に、おじいさんが、電話で、亡くなった日とその時の様子を教えてくれた。

その話を聞いた時は、自分の身内や友人でもないのに、非常に心が苦しく、悲しくなった。あの時、おばあさんの家の玄関先で、アイコンタクトしたのが最後、それから数時間後に救急車で運ばれて亡くなったなんて・・・!

病気がちで、いつも「あたしはいつでも死ぬ準備はできてる。」なんて言っていても、そんなことは想像できなかった。

 

おばあさんは、私に確定申告の書類を渡して、自分の任務を全うしたと思ったのだ、と思った。

 

何もできないけれど、お線香を上げに訪問した。

おばあさんの遺影は、おそらく20年ぐらい前の写真で、若いときのものだった。

 

その後しばらく、たまには思い出したけど、仕事も多忙で、おばあさんの家の前を通るとき以外は思い出さないようになっていった。

 

そのおばあさんが、先週、夢に出てきた。

遺影で見たような、私が知っているそのおばあさんより少し若い時のおばあさんで、たくさんの人に囲まれて、穏やかな優し気な雰囲気で、皆になにか食べ物などをふるまっていた。

夢の中で、私は、心の中で、

「あ、おばあさんだ。」と思うと同時に、

「えーと・・・、おばあさんは確か亡くなったはず。ということは、そうか、これは、夢なのか。」

と、夢の中で思っていた。

 

あれが天国なら、おばあさんは、心穏やかに過ごしているのだろう、と思った。

なんとも、不思議な夢。

おばあさんの思い、かな。