「い~しや~きいも~~」
この声が聴こえてくるやいなや、1年生の娘が大慌てで、仕事をしている私のところにやってきた。
「石焼き芋、食べたい!!!!!!」
「早く!急がないと、遠くへ行っちゃう!!」
「何が何でも、ぜったいに石焼き芋が食べたい!!!!!!」
私の子どもの時にも、全く同じフレーズで、「い~しや~きいも~」と軽トラックが来ることがよくあったよ。でも、私の子どもの頃は、一度ぐらいはねだったことがあったかもしれないけど、自分の親が「絶対にダメだ」と言うんで、買ったことは無かった。
「なんでダメなの?絶対においしいよ!早く買いに行こう!!」
とあまりに娘がねだるので、仕方なく、仕事の手を止め、財布を持って慌てて買いに向かった。
なんてことはない、石焼き芋の軽トラックは、私のマンションの前に止まっていた。
おばあちゃんが、焼き芋の味見をさせてくれて、どの芋がいい?と聞いた。
「安納芋にする」
と娘が言って、安納芋を3つ買って、
「紅はるかも追加で、全部で千円ちょうどでいいよ」
とおっしゃるので、紅はるかも買った。
子どもは大喜びで、家に帰るなり、「おいしい、おいしい」と食べていた。
「サザエさんちっていいよねー。だって、サザエさんちは、子どもが石焼き芋食べたい!って言うんじゃなくて、石焼き芋って聞こえてきたら、子どもじゃなくてサザエさんが『待ってー!』って走っていって石焼き芋買うんだから。」
「あの石焼き芋のおばあちゃん、毎週金曜日に駅前にいるんだって。アタシ、もう、おばあちゃんと知り合いになったから、今度から駅前に買いに行くわ。お小遣い貯めて千円になったら石焼き芋買えるからね。」
自分の子どもの時は、こんなに自由じゃなかったよ。石焼き芋なんて、おとぎ話の世界の食べ物のように思っていた。近くて遠い、食べ物。あの声が聴こえるたびに、「石焼き芋って、どんなんなんだろう」と子ども心に思っていた。
今、自分は、自分が子どもの時に味わえなかったことを、わが子を通して、追体験しているんだと思う。