「フランドル絵画ってどんなんやったっけ?」と、たいした知識もなく行ったのですが、面白かったです。
展示されている作品はほとんどすべて、ドイツにあるシュテーデル美術館から来たものでした。
展示は、次の5つに区分されていました。
Ⅰ.歴史画と寓意画 Ⅱ.肖像画 Ⅲ.風俗画と室内画 Ⅳ.静物画 Ⅴ.地誌と風景画
私がこのオランダ・フランドル絵画展で学んだことは、この時代のオランダは、宗教的には(カトリックに対抗した新進気鋭の)プロテスタントで、大航海時代の貿易により経済的に最も繁栄していたため、オランダ絵画とフランドル絵画は、自由な精神を持ちながら、その貿易による富を得た貴族たちに支えられていたということです。
例えば、静物画で多くあった花の絵。
これは、「ヤン・ブリューゲル(父)の工房」の『ガラスの花瓶に生けた花』(1610-25年頃 油彩・銅板)です。
「なにか気味悪ささえ感じる変な花々だな」と思って見ていたら、当時の貴族たちは珍しい花を描いた絵を持っていることがステイタスだったそうで、この絵には、画家があまり見たこともない花を空想で描いているとのことでした。
そのため、咲く時期が異なる花々が一緒に花瓶に生けてある絵になっているそうです。
この「ぜいたく品」を描く傾向は、その果てには“ヴァニタス(虚栄)”を意味するようになっていき、静物画の中には、果物と一緒にピストルや骸骨が描かれているものもありました。
寓意画の章で面白い絵がありました。
『ネズミのダンス』 フェルディナント・ファン・ケッセルに帰属
(1690年頃 油彩・キャンヴァス)
これは、「猫が戸の外にいるときは机の上でネズミがダンスしている」ということわざが基となった絵です。
この絵は、イルカの頭をした脚のテーブルの下で4匹のネズミが手を取りあって今からダンスしようとしているところだそうです。
この絵だけ見るとネズミがかわいく見える。本物のネズミは真っ黒でしっぽが気持ち悪くて嫌いですけど(汗)。
この美術展の一番の目的だったフェルメールの『地理学者』(1669年 油彩・キャンヴァス)です!
公式HPにも紹介されていますが、この絵には、大航海時代のエッセンスが凝縮しているそうです。
まず、地球儀に世界地図。地理学者の手にあるコンパスに定規。
そして、当時、地理学者は地位が高く、裕福な生活をしていたことが描かれているとのことでした。
この地理学者が着ているガウンは「ヤパンス・ロック(日本の着衣)」というもので、裕福な市民の間での流行の服だったそうです。それから、奥の壁の下にはめられているタイルがデルフト特産物の青い絵付けのタイルで、机の上にある布は、ゴブラン織りという高価な織物とのことでした。
そんな豪華な生活品もいいけど、この地理学者の眼差し、一体何を思っているところだと思われますか?
私は、初めに浮かんだのは「窓の外を眺めて、『友達が乗ってる船が着いたようだ』と思っている」のかなと思い、次に浮かんだのは、「実は窓の外の何かを見ているのではなく、『あそこの地名なんだったっけ?』と思っている」です(笑)。こういうのには答えがないですけどね。敢えて黙々と地図を測っている姿ではない姿を描いているところが、この絵の印象が清々しいものを感じさせるのかもしれない、と思いました。
この絵の対画という『天文学者』がポストカードで売っていたので、今回の美術展では展示されていないものですが、買ってきました。
『地理学者』と『天文学者』はサイズもほとんど同じで、『地理学者』が描かれた前年頃に『天文学者』が描かれたそうです。この絵はルーブル美術館所蔵です。フェルメールの絵をいくつか見ていると、フェルメールは、画面の向かって左に窓がある構図が好きだったんですね。柔らかな光が心地いいです。オランダは緯度が高いから太陽の光も日本よりずっと柔らかいんでしょうね。
そして、今回の美術展で私が一番面白かった絵がこれです。
「何これ?!」ですよ。笑ってしまいそうになったけど、周りの人が誰も笑ってなかったから、気をつけて心の中で笑ってました。
『苦い飲み物』 アドリアーン・ブラウエル
(1636-38年 油彩・板(オーク材))
私も風邪薬パブロンを飲んだ時この顔になってると思います。まずいから。「うげー」って。
なんでこんな姿を描くんだろうと思ったら、解説にありました。この絵の作者アドリアーン・ブラウエルは、初めは普通の絵を描いていたそうなんですが、そのうち人間の強烈な感情に焦点を当てるようになったという旨が書かれていました。
なるほどねぇ。この顔はどの時代も老若男女、世界共通ですね。面白いです。
この絵は、発表当時も大きな影響を呼び、その後19世紀まで、模写や版画が制作されたそうです。納得。衝撃的ですもんね。
この絵ほど強烈な絵はあまりないかもしれませんが、他にもいろんな絵がありましたよ。
バロック絵画といっても重々しいものではなく、意外な発見もあって楽しい美術展でした